ドクターに訊く|医師・カイロプラクティック専門家との対話から考える身体の見方
このページは、広陵コンディショニング院長が、整形外科の専門医やカイロプラクティックの専門家との深い対話を通じて学んだ、身体の見方や手技療法についての考察をまとめた専門コラムです。
「医療の視点(西洋医学)」と「手技療法の視点」の双方から、痛みやしびれの背景に対してどのようにアプローチしていくべきなのか、多角的な知見をご紹介します。同じような症状でお悩みの方にとって、身体の仕組みを紐解くひとつのヒントになれば幸いです。
※当施設は医療機関ではありません。体調に重度の不安がある場合や、強い痛み・麻痺・歩行障害などがある場合は、まず専門の医療機関での検査・受診を最優先に考えていただくようお願いいたします。
ドクター紹介

吉原 潔(よしはら きよし)医師
三軒茶屋第一病院 整形外科部長
※ 以下、ドクターズガイドより抜粋
専門:脊椎外科、スポーツ整形外科、低侵襲手術、腰痛
- 「神の手」と評される出沢医師の直接指導を受け、現在は「二代目神の手」「腰博士」との異名をとる内視鏡手術の専門医。
- 椎間板ヘルニア・腰部脊柱管狭窄症への脊椎内視鏡手術1泊2日の入院で行える椎間板ヘルニアの手術(PELD法)を得意とする。
- TLIFなどのスクリューを使う固定術においても低侵襲にこだわり、各方面からの講演依頼も後を絶たないなか、後進医師への指導も積極的に行う。また、日本体育協会公認スポーツドクターとして、多くのスポーツ選手の診察にも当たっている。

堀 和夫 D.C. (ドクター・オブ・カイロプラクティック)
クリエ・プラクティック院長
- 4DS姿勢分析師 認定者
- 岡山県で整骨院、鍼灸院、整体院、エステなどのマネージメントをしておられるカイロプラクティックの先生

栃谷 英樹
広陵コンディショニング 院長
吉原医師や堀D.C.をはじめとする各分野の専門家との対話や連携を大切にしながら、日々の施術にあたっています。
カイロプラクティックでいう変位(ズレ)や矯正の効果について
吉原医師整形外科医として骨折や脊椎の手術をしてきましたが、1〜2mmのズレなど絶対に外から触って分かるものでは無いと思います。(鎖骨中央や脛骨内側など明らかに骨の表面を触れる部分を除く)
我々は手術中にレントゲンを見ながら骨折のズレが極力少なくなるように手術しています。それでも完全に整復されずに1-2mmずれて固定されることがあります。頸椎も2番は外からある程度触れますが、1番に触れるのは無理ではないですか。
栃谷院長ズレという言葉の定義をまずしないといけないかもしれません。カイロプラクターが言う「ズレ」は1ミリ程度の椎骨のズレですが、これは次のようなことで判断しています。
カイロの触診には、静的なものと動的なものとがありますが、動的な触診(可動触診)では、椎骨の動き方をみます。たとえば、椎骨の棘突起を左右から軽く押して柔らかく感じるか硬く感じるか・・・この場合、硬く感じる側に変位していると考えます。
椎骨の奇形(変形)などはよくあることだと思いますが、可動触診でみていくと、棘突起の位置がずれていても、動きに異常がなければ問題がないと言えます。頸椎1番の横突起は、乳様突起からすべらせて左右比較すると、側方変位は比較的容易に触診できます。他の椎骨と違って棘突起のない頸椎1番の回旋変位は、判別するための手順があります。
神経根障害や椎間孔狭窄などについて
吉原医師S1の神経根はL5/S1で分岐したあと、すぐに全体がすっぽりと仙骨の中に入りますから椎間孔という概念は全く当てはまりません。(S1は椎間板レベル下縁で分岐し、そのまますぐに全てが仙骨の中に入り、仙骨の前面から出てきます)
栃谷院長L5神経根はL5腰椎椎体と仙骨の間から出ている。ここでの挟み込み(圧迫)の可能性はないのでしょうか? もしあるとすれば、その状態を椎間孔狭窄症とは呼ばないのでしょうか。
吉原医師L5神経根はL5腰椎椎体と仙骨の間から出ている、これは合っています。ここでの挟み込み(圧迫)の可能性はあります。しかし椎間孔狭窄症や外側ヘルニアは決して多いものではありません(たまにあるくらいの頻度)。たいていは脊柱管の内部での変化です。
実例を出せば分かっていただけると思いますが、椎間板ヘルニアや椎間孔狭窄症で椎間孔を広げる手術を必要とする人はほとんどいません。その他については、正確には下記の通りです。
- SⅠ神経根の障害は、L5~S1椎間板ヘルニアで起こりうる
- L5神経根障害は、L4~L5椎間板ヘルニアと、L5~S1外側病変で起こりうる。
- L4神経根障害は、L3~L4椎間板ヘルニアと、L4~L5外側病変で起こりうる。
吉原医師この説明は難しいです。正中の椎間板ヘルニアで少し左寄りかなあ?と思っても右足が痛い事もあります。何らかの原因で症状のある方の神経根に炎症が起こっているのだと私は考えています。
栃谷院長この「何らかの原因」が、椎間孔狭窄とは考えられないでしょうか。
吉原医師正中の椎間板ヘルニアですから病変は脊柱管の中です。それを脊柱管外の外側病変と結びつけるのは無理があります。
私が前から言っているように、矯正ストレッチで痛い方の筋緊張をほどき、筋スパズムを軽減して痛みを和らげたと仮定する方がよっぽど説得力があるように思いますが……。植木と同じように少し枝をしならせた(矯正)としても手を離せば元に戻ります。だから私はカイロプラクティックなどにおける矯正に対しては懐疑的です。そちらにこだわるのはどうなんでしょうか?
栃谷院長デルマトームを調べて鑑別できないでしょうか。たとえば、正中椎間板ヘルニアがL5-S1であるのに患者さんが、下肢後面の痛み(S1神経根障害)ではなしに、下肢外側の痛みを訴えている……この場合、L5神経根の椎間孔狭窄を疑えないか?
吉原医師デルマトームは厳密なものではありません。あくまでも参考程度です。また、学者によってもデルマトームの領域が異なっています。ズボンのポケットの横線から10センチくらい後方の臀部を痛がる場合にはL5ですか?S1ですか? どちらとも言えないと思います。また、L4/5のヘルニアであっても大体後面を痛がる人は少なからずいます。
椎間孔が狭窄するのは、通常、椎間関節のある椎間孔下部です。神経のある(出てくる)ところは骨性の被覆で施術で変化しません。脊柱管外の部分は施術で変化する可能性がありますが、通常は低確率(ほとんど症例がない)です。多くの症例は脊柱管内であり、ここは椎間孔と関係ありません。
マッケンジー法について
吉原医師ある文献によると、骨転移や椎体骨折、脊椎炎などを除いたうえでの腰痛へのマッケンジー法の有効率は70%だそうです。つまり30%の人には無効という訳です。こういう数字は必要です。
「マッケンジーは可動域をアップするのが目的であって、反らして治すのではない」ということが強調されていました。ただし、いくつかに分けたサブグループでは反らして良くなるタイプが最も多いとありました。「マッケンジーは反らして治すとの誤解が多い」と(その文献では)嘆いていました。
栃谷院長腰痛にマッケンジーが7割も有効だとは意外です。そんなにマッケンジーが効くとは思っていませんでした。やはり、今の日本人は前かがみでの作業(デスクワークその他)が多く、脊柱の前屈傾向があるという事でしょうか。
3割無効は、この場合「鑑別検査せずにすべての腰痛の人にマッケンジーをしてみて」という事だと思いますので、これは当然だと思います。
当施設でのデータ(ごく簡単な区分け)
- 前屈時痛あり(4割前後):仙腸関節捻挫、椎間板ヘルニアの診断が整形外科で出ている人が多い。
- 後屈時痛あり(5割前後):脊柱管狭窄症の診断が整形外科で出ている人が多い。椎間関節症。(前方)すべり症はごくたまに。分離症の人はうちでは稀。
- 両方あり(1割以下):ぎっくり腰。急性の椎間板ヘルニアに多い印象。椎間板と狭窄症の併発はうちでは5パーセントもない。
脊柱管狭窄症について
栃谷院長椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、すべり症の方を施術する際、そういった変性(MRIで診られる構造的な異常)そのものは治せていなくても、痛みがきれいに取れることはよくあります。これは、構造の変性自体が痛みの直接的な原因になっていないケースがあるという事だと考えられます。
では、この場合何が原因で痛みが出ていたのか。筋のトリガーポイントだけでこれほどの痛みが出るようにも思えませんし、かといって神経の物理的な圧迫だけで出ているのなら、脊柱管狭窄症における黄色靭帯の肥厚は手技で容易に直せないはずです。
末梢神経の絞扼障害と、椎間板ヘルニアまたは脊柱管狭窄症といった脊柱部における症状とでは、痛み・しびれ・異常感覚の出方において、生理学的にうまく説明するとすればどのようになるでしょうか?
堀D.C.急性期のぎっくり腰と急性の脊柱管狭窄症は、筋肉は硬くなっていても全く違った性質を持っています。まず、何が原因であれ、筋肉が硬くなることを「硬縮」と呼ばせてもらいます。その中に、拘縮、痙縮、固縮などがあります。
まず「拘縮」とは、活動電位の発生を伴わずに起こる持続の長い非伝導性の可逆的収縮。解り易くいえば、静止時でも常に筋が緊張している状態で、適切なアプローチを与えれば緩和する状態です。関節可動域制限があるときは必ず拘縮があります。ぎっくり腰は基本この拘縮のみです。
しかし、脊柱管狭窄症は、拘縮に加えて「痙縮」や「固縮」を伴う場合があります。狭窄症の筋肉は、表面も奥もパンパンで、炎症のない腫れたような状態(酷いむくみと筋拘縮が同時に起こった感じ)が全身、左右両側で起こります。背部、臀部、ハムストリングス、腹筋など、前面も後面もすべてパンパンです。
堀D.C.まとめると、椎間板ヘルニアは片側性(右か左か)で、拘縮も局所的(臀部だけなど)。しびれる場所も親指だけ、小指側だけなど神経分布に沿っています。
対して狭窄症は、両側性(左右)で拘縮も全身的。しびれも足の裏全体や全指先など神経分布に沿っておらず、特徴として「間欠性跛行」がみられます。ある程度の年齢(70歳頃)になったら脊柱管の狭窄は老化の一つとしてあってもおかしくありません。
症状の一番の原因は、こうした全身的な筋拘縮(循環性拘縮と神経性拘縮の合併)によって起こっています。全身の循環障害により、脊柱管内の髄液も浮腫状態となり、全体として脊髄を圧迫しているため、多少の中枢神経症状が出ているのかもしれません。この循環障害と筋拘縮が同時に起こらないと、脊柱管狭窄症としての強い症状(激痛や歩行障害)は現れないと考えられます。
堀D.C.「車の振動すら苦痛」「臀部を軽く押したり体を揺らしたりしても激痛で耐えられない」という急性期の狭窄症の患者さんは、痛みに対する閾値(いきち:興奮を生じさせる最小の刺激値)が下がっています。下半身全体が捻挫で腫れ上がっているような状態だからです。
こうした急性の脊柱管狭窄症の強い筋拘縮を緩めるのに唯一有効なのが、アメリカのカイロプラクティックでも重宝されている「AIサークラム矯正法」です。仙結節靭帯に眼球を触るくらいの極めて微細な圧で触知し、間接的に脳脊髄液の循環をコントロールします。末梢からの強い刺激ではなく、中枢に直接働きかける微圧が必要となるのです。
脊髄終糸症候群について
栃谷院長脊髄終糸症候群について、何か知見がおありですか? 私は、後方仙骨を矯正すると良い変化が出るような気がしているのですが……。
堀D.C.その考察は的を射ています。脊髄神経は脊椎の後方に位置しているため、腰椎が後弯(後ろに丸くなる)すると、脊髄終糸は強くストレッチされて引っ張られます。逆に、腰椎が前弯(自然な反り)を維持すれば、脊髄終糸は緩みます。つまり、手術をしなくても腰椎を前弯に矯正できれば、終糸を緩めることが可能です。
脊髄はつい最近まで「伸長しない」と信じられてきましたが、実際はゴムのように伸縮します。1960年代に神経学者のアルフ・ブリーグ博士によって「脊髄は脊柱管内を上下に移動するのではなく、定位置で伸縮する」ことが証明されました。体を前屈すると脊髄は頭側に引っ張られ、それに伴って終糸も引っ張られます。脊髄終糸症候群も、脊柱管狭窄症と同じく軟部組織の過緊張と循環障害が深く関わっていると考えられます。
栃谷院長「伸縮はするけれど、上下に大きく移動し擦れるわけではない」という連動の捉え方が、安全な手技アプローチにおいても非常に重要になりますね。
広陵コンディショニングとしての補足
このページは、過去の対話内容をもとにしたコラムです。広陵コンディショニングでは、医師による診断や治療に代わる行為は行っていません。
頚椎・腰椎・神経症状・しびれ・歩行障害・排尿排便の異常などがある場合は、医療機関での検査や診断を優先してください。当施設では、医療機関での確認を大切にしながら、身体面から状態を確認し、無理のない範囲で施術を行います。
出典・参考情報
- 吉原医師プロフィール出典:三軒茶屋第一病院 公式情報・各種ドクターズガイド
- 堀D.C.プロフィール出典:クリエ・プラクティック 公式情報
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