開業当初、ひとり2時間かけて診ていた・・
開業当初、私は手足の小さな関節から頭の縫合にいたるまで、すべての関節を調べていました。同時に、触診可能なすべての筋肉や膜系もくまなくチェックしていました。
問診にも20分以上の時間をかけ、過去の物理的トラウマ(打撲・骨折歴など)・心理的トラウマの内容や、現在の生活習慣の問題点を徹底的に洗い出していました。
早く先輩施術家や達人の域に近づくためには、このようにして自分の手、脳、そして身体に、膨大な情報をインプットし続けるしかないと考えていたからです。そのため、ひとりあたりの施術時間は2時間以上かかっていました。
当院の手技療法は、カイロプラクティックのほかにオステオパシーの理論や・手技技術が含まれています。それらを教えていただいた師匠からは「100人施術すれば、かなり人の身体が分かってくる」と言われていましたが、実際にその通りでした。
- 300人を超えたとき:筋骨格系などの「分かる」感覚が、以前にも増して一気にアップしました。
- 1,000人を超えたとき:すべての検査をしなくても、直観で原因をだいたい特定できるようになっていました。
このレベルに達したあたりから、施術時間は自然と60分以内で済むようになっていきました。
名著『いのちの輝き』との出会い
開業してしばらく経った頃、ある一冊の本に出会いました。それが、伝説のオステオパスであるロバート・C・フルフォードD.O.の著書『いのちの輝き』です。(ロバート・C・フルフォードD.O.は、90歳近くまでフルタイムで臨床の現場に立ち続け、それ以降も生涯現役の治療家として活動を続けられていました)
そこに書かれていた彼の治療方法や哲学は、驚くことに、まさに私が実践し、考えていたことと同じようなものでした。

ロバート・C・フルフォードD.O.の哲学とアプローチ
◆ 身体の観察と軽い接触
私がフルタイムで働いていたときは、足の裏から頭のてっぺんまで手で触れ、すべての関節の動きを調べ、関節表面の緊張を探っていき、生命力の悪いところを特定しようとした。大きな力で関節を押しても何の情報も得られないが、関節にごく軽く触れると、関節は必要な情報を教えてくれる。
◆ 触診のプロセス
足から足首、すね、膝、下腿、股関節、骨盤と動きを調べていく。それから腹を調べる。これは急性虫垂炎の診断方法と同じで、皮膚を通して体内の異常が手に感じられる。
次は横隔膜。横隔膜の働きの悪い患者は非常に多い。そして、胸郭、腕。両腕を180度うまく上げられないなら、肋骨の動きに制限があることを示し、上げにくい側の呼吸を阻害している可能性がある。
次に首が自由に動かせ、あごの動きが均等かどうか。顎の動きの不均一は頸椎に問題が生じていて、脳への血液供給を妨げている可能性がある。この場合、頭痛が起こりやすい。さらに大切な頭蓋骨の動きと左右脳半球の動きも調べる。
◆ 頭蓋骨の微細な運動
一般的な医師は、長らく頭蓋骨は動かないと主張していたが、ミシガン州立大学の研究で頭蓋骨に微細な運動があることが判明した。頭に動きの感じられない場合、ひどい頭痛、睡眠障害、もっと重大な病気、子供なら学習障害の徴候を疑う。
1950年代、私が小学校で学習障害のある10人の児童に3か月かけて頭蓋骨の治療をしたところ、IQが80ぐらいから100以上に上昇していた。
◆ 出生時のトラウマ
薬物中毒や自殺で死亡した人の研究で、最も顕著だったのが「出生時のトラウマ」だ。出生時の窒息状態、鉗子などの金属器具で取り出される、妊娠中の母親の病気など。
私は開業から今日まで、出生にまつわる情報を詳しくたずねてきた。多くの人が生まれたばかりの最初の呼吸に失敗している。かくいう私もそのうちの一人で、それによって体のゆがみが出来ていた。それが分かったのは私が40歳を過ぎてからで、その経験はその後の治療に役立っている。
◆ 治療の頻度
多くの患者は1回の治療ですむが、「3か月たったらまた来なさい」と言う。これは指示したエクササイズをちゃんとやっているか確かめるためだ。もっと頻繁に来る者、長年ずっと来る者もいる。手技を受けるのを楽しみにしている人たちだ。
◆ 無心での観察と直観
手を動かしているときに患者に「何を考えているのですか?」と聞かれる。答えは「別に(何も)」だ。ただひたすら観察し、手の感触を通じて患者の生命力を感知しようとしているだけだ。何かを考えたら、感知したものをゆがめてしまう。手に感じたものを偏見なく即座に解釈できなければ治療はうまくいかない。
オステオパシーは直観を大切にする。それは現代医学の失ったものの一つでもある。私が多くの原因不明の病気を治すことができたのも、直観のおかげだ。
◆ ドクターの態度と関係性
ドクターの態度は患者に影響を与える。患者の古い想念パターン「自分は具合が悪い」を破って、新しいパターン「自分はこれで治りそうだ」を作り上げるまで治療プロセスは始まらない。このような考え方は、一昔前まで笑いのネタだったが、今では一般的に認められているようだ。
ドクターと患者の関係性は最初の4分で決まる。あるいは、その前の待合室の雰囲気で決まってしまう。ドクターの愛に基づく信頼の態度によって、患者もドクターに信頼で応えるようになる。しかし、それで問題がすべて解決すると考えるのは早計だ。身体全体を考察して問題点を探し治療しなければ、いったん治っても症状が必ず再発するからだ。
「好転反応」への事前説明の重要性
そのほか、当時私にとって非常に興味深かったのが、次の一文です。
「その日の治療によって、何らかの反応が出ることを患者に告げなければならない。たとえば、治療を受けて72時間は、10トントラックにひかれたかと思うほどの苦しみを味わうことになるかもしれない。しかし、『それが過ぎれば、身体が再調整をはじめる』と告げておけば、患者は心配することなくその苦しみに耐えることができる」
開業当初の私は、ほどほどの所で「今日はここまで」と切り上げる感覚がなく、とことん施術をしていました。そのため、このような激しい反応を数人に一人は出していたはずです。
ここで重要なのは説明のタイミングです。
- 事前説明:クライアントにとって「予言が的中する良い先生」
- 事後説明:クライアントにとって「ただ言い訳をしているダメな先生」
フルフォードD.O.が言うように、「治療はほとんど1回で済む」。当時の私は、施術者にはそれほどの責任があると考えていました。今から振り返ると、極度の「ゴッドハンド病」だったな、とも思うのですが(笑)。
ちなみに、身体を良くすることができる施術というのは、使い方を間違えれば「悪くさせる可能性」も十分に秘めています。先輩の施術家からも、患者を悪化させてしまった経験を色々と聞いてきました。実際、改善例よりも失敗例のほうが役に立つこともあります。その両面を知ることで、手技療法の現実や可能性がより鮮明に描かれるのだと思います。
『いのちの輝き』『関節のメッセージを聴け!』『インナーフィジシャン』といったオステオパシーの医師たちの本は、治療の本質や哲学を考える上で非常に役立ちます。専門家だけでなく、一般の方が読んでも十分に面白い内容です。
【参考】オステオパシーとは?
100数十年前のアメリカで、内科・外科の医師であったアンドリュー・テイラー・スティルは、自身の子供3人を次々と髄膜炎で亡くしました。当時の医学の在り方に強い疑問を抱いた彼は、「本当に人が必要としている医学は何か?」を長年研究し、次のような原則を見出しました。
- 身体は、全体でひとつのものとして機能しているユニット(塊)である
- 機能は構造を支配し、構造は機能を支配している
- 血液(体液)の循環が最も重要である