カイロプラクティックの協会から「臨床研究会をするから、講師役をよろしく」と頼まれてからはや三カ月。全国から優秀な先生方がひとり、またひとりと参加表明されるごとに、私の責任重大度はアップしていきました。プレッシャーもありましたが、昨日、ついに第1回目を開催することができました。

最初のテーマは「慢性痛に対する鑑別検査と施術方法」。参加された先生方が非常に真剣に聴いてくださり、まずは無事に終えられてホッと一安心しているところです。
今回は、その研究会の質疑応答のなかで、「胃薬(PPI:プロトンポンプ阻害薬)の長期服用者にどう向き合うか」という質問とその回答について共有します。
1. 薬をやめろと言わずに、クライアント自身で気づいてもらうカウンセリング
臨床現場において、逆流性食道炎などで胃薬(PPI)を長期服用されているクライアントは多いです。しかし、私たち治療家が「(医師から処方されている)薬をやめなさい」と言うことはできません。一方で、この薬で胸焼けはおさまるものの、長期服用による副作用に引っ張られて、慢性痛などの身体の調子が根本的に良くなりづらいという厳然たる事実もあります。臨床ではこれをどうクリアするかが問題となります。
当院の臨床では、以下のようなステップでクライアントと一緒に「事実」を確認していきます。
- まず、その薬がどういうものか、製薬メーカーの公式サイトを開いてパソコンの画面を見ながら事実を確認する。
- さらに「PPI 副作用」などのキーワードで検索し、AIのまとめなどを一緒に確認していく。
胃酸を止める(胃のpHが上がる)ということは、タンパク質やビタミンB12の消化、ミネラルのイオン化に難が生じるということです。ここから以下のようなドミノ倒し的な不調のリスクが浮き彫りになります。
- ミネラルやタンパク質の消化吸収不良による、骨密度低下および骨折リスクの上昇。
- 胃底腺ポリープの発生や、ピロリ菌感染がある場合の胃粘膜萎縮による胃がんリスクの懸念(研究による)。
- 消化不良のまま小腸に入ることで、ガスが溜まりやすくなったり、腸管感染症が生じたりする。
2. 胃酸低下から始まる「腸・関節軸」の崩壊
さらに臨床的には、腸内でカンジダ菌が増殖するリスクが上がります。ここまで進んでしまうと、身体を改善させるのにものすごい時間と労力がかかります。現れる症状は多岐にわたります。
腹部膨満感、便の異常、胃もたれ、吐き気、みぞおちの痛みだけでなく、頭にモヤがかかる(ブレインフォグ)、甘いものへの異常な欲求、精神的な不調や弱さ、原因不明の頭痛、肌・爪・髪のトラブルなど、全身に及びます。
そして、このような内科的な問題は、カイロプラクティックや生理学の観点から見ると、腰痛や坐骨神経痛、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、あるいは膝や股関節の変形性関節症といった整形外科的な問題に関係しているのです。
たとえば、腸内環境の悪化(ディスバイオシス)によって軟骨保護作用のあるGLP-1の分泌が抑制され、関節保護作用が消失してしまいます。今やメディカルの領域でも、腸内環境の悪化が遠隔にある関節の変性を引き起こすという「腸・関節軸(Gut-Joint Axis)」を標的とした治療法が開発されようとしています。ここまで丁寧に説明していくと、クライアントは「わー、今の私、そのままですね」と、クスリのリスクについて自ら意識が目覚めていきます。
3. メディカルと徒手療法の「天秤」をどう取るか
とはいえ、ただ薬を敵視すればいいわけではありません。胸焼けを放置すれば、それはそれでバレット食道による食道がんリスクを生じさせてしまいます。ドクターはドクターで、そのリスクを考慮して処方されているのです。臨床的には、この「天秤の取り方」こそが肝になります。
だからこそ、薬の悪い面ばかりを伝えるのではなく、私たち徒手療法家が「薬に頼らなくても胸焼けが起きない身体構造と習慣」を作っていくという代替案を提示できなければなりません。カイロプラクティックやオステオパシーには、そのための手段が豊富にあります。
- 神経系へのアプローチ: 下部食道括約筋を支配する神経の出どころを評価・調整する。
- 内臓マニピュレーション: 胃の大弯・小弯・噴門・幽門への手技、肝臓・胆のうからファーター乳頭への手技により、消化液の分泌や括約筋のテンションを調整する。
- 機械的なアプローチ: 胃が横隔膜の上に飛び出す裂孔ヘルニアに対して、手技で優しく押し下げる。
- 生活習慣・栄養指導: 胸焼けを起こしづらい食事の摂り方や、生活習慣への的確なアドバイス。
こうした多角的なアプローチによって胃食道反射のメカニズムを正常化できれば、クライアントはドクターと相談しながら、安全に減薬・休薬への道を歩むことができるようになります。
昨日の研究会では、こうした「単に腰が痛いから腰を診る」を超えた、生化学と徒手療法がクロスオーバーする臨床のリアルを熱く共有しました。全国から集まった先生方と、これからもこうした深い知見を相互に補完し合いながら、日本の臨床力向上に貢献していきたいと思います。参加された先生方、本当にお疲れ様でした!