2026年6月からスタートする、日本カイロプラクティック師協会(JSC)西日本支部主催の「臨床研究会」。講師を務める私からのコラム第2回をお届けします。

今回のテーマは、「クライアントの訴えと各種検査によって、その時点で可能な限り詳細な明細表を作りましょう」というお話です。
1. 腰痛100人なら、原因の明細表も100通り
スーパーで100人が1万円分の買い物をしたら、その中身は100通りです。居酒屋で100人が5千円分を食べたら、その内容も100通りでしょう。これと同じで、腰痛の患者さまが100人来られたら、腰に痛みが出るに至った経緯は100通り存在します。
臨床現場では、この「患者さま100通りの明細表」を、私たちセラピスト側が鑑別検査をもとに考察し、全体像を描いておく必要があります。
- 明細表の例:「メインは仙腸関節などメカニカルなストレス。しかし、インナーユニットの機能障害が食生活(内臓体壁反射など)に由来しているため、生化学的ストレスの影響が強い。そこに季節の変わり目の自律神経負担と、心理的ストレスが修飾している……」
もちろん臨床的に頻出するメカニズム(パターン)は存在しますので、研究会ではそうした部分を効率的に学べるようにしていきます。まずは3領域(物理・化学・心理)を考慮し、幅広く「投網」を投げておくことが重要です。
- メカニカル(物理的): 徒手療法や神経学の領域から、負荷の種類や量、その痕跡を評価。
- ケミカル(生化学的): 生理学の視点から評価。分子栄養学は臨床で強力な武器になります。
- 心理社会的: 深入りすると泥沼化するため、範囲を決めて臨床で使いやすい技法を用意しておく。
2. 臨床現場での注意点:100%を伝えない技術
ここで重要な注意点があります。術者が様々な可能性を考えて問診・検査し、導き出した明細表をクライアントさまに100%そのまま伝えてしまうと、相手は混乱してしまいます。
あれこれ悪い部分や修正すべき点を説明しすぎると、悲観的になったり、自己重要性を阻害されたと感じたりする恐れがあります。伝えるときは、相手が許容できるラインに収め、その人にとっての「適度な難易度」で克服すべき課題を提示する。この「伝え方のコントロール」もプロの大切な技術です。
3. 腰痛の85%にアプローチする
腰痛を診る際、まずは物理的ストレス(負荷)がどこに最もかかっているかを第一に考えます。
- 侵害受容器の多い「椎間関節」への負荷
- 「椎間板」の変性による痛み
- 整形外科で評価されにくい「仙腸関節」(ここも侵害受容器が多い)
- 同じく整形外科で対象となりづらい「筋・筋膜」
腰痛の権威である整形外科ドクターも「画像で見える腰痛は15%ほど」と言われています。残りの85%の領域に対して、私たち徒手療法家がやれることは山ほどあります。(※侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の鑑別など、整形外科との連携・診察が必要なケースはしっかりと見極めます)
たとえば「腹横筋などのインナーユニットが働かない状態でアウターばかりが働き、仙腸関節などの靭帯に負荷がかかっている」というケースは非常に多いです。運動療法は重要ですが、一度ついた癖(靭帯の短縮など)には徒手療法の介入が必須です。ヨガやピラティスの達人なら自己操作できるかもしれませんが、一般の方には私たちの介入があることで、治癒のスピードが全く異なる次元で進みます。
4. メカニカルに留まると「治せない壁」にぶつかる
整形外科領域や、筋肉・骨格だけのメカニカルな領域に留まっていると、一定数どうしても治せない患者さまが生じます。
カイロプラクティックの知見では「腹筋群と小腸」、あるいは「矢状縫合」との関係性が指摘されています。そうであれば、食生活や分子栄養学、オステオパシーや頭蓋施術の知識・技術が必要になります。また、ファシア(膜)を考慮すると、腹膜系(内臓系)の施術をしないと全く良い反応が起こらない腰痛に度々出会います。ここで「オステオパシーの内臓マニピュレーション」という武器を持っているかどうかが、臨床力の決定的な差になります。
【よく出会う臨床例】
過去数年以上、5軒以上の病院や施術院を回っても治らなかった「右腰の痛み」。
盲腸の靭帯・腹膜の操作をするときれいに痛みが取れることがあります(もちろん、仙腸関節や椎間関節などの癖もすべて取り除きます)。これまでどこに行っても言及されなかった部位ですが、内臓マニピュレーションを知っていればごく基本的な発想と施術です。ここに名人技は必要ありません。「知っているか、知らないか」それだけです。
共に引き出しを増やしていきましょう
引き出しの多さが、そのまま目の前の患者さまを救う力になります。この臨床研究会では、私が現場で使っている具体的な武器や組み立て方を余すことなく共有します。参加される先生方、ぜひ一緒に臨床力を高めていきましょう!