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【私の視点】慢性痛と「胃腸の不調」に隠された身体の生存戦略

「慢性的な腰痛や肩こりがどこに行っても治らない」「寝違えやぎっくり腰を繰り返している」「いつも不安で眠れず、集中力やパフォーマンスが落ちている」

こうした不調を抱えている方の多くに、実は共通する「もう一つの症状」があります。それが「胃腸のトラブル(消化力の低下)」です。

一見、整形外科的な痛みと胃腸は何の関係もないように思えるかもしれません。しかし臨床現場において、ひどい腰痛や肩こりがある方で、胃腸にまったくトラブルのない方は稀だというのが紛れもない実感です。世界的な神経科学者であるポージェス博士の理論(ポリヴェーガル理論)を交えながら、慢性痛と消化力、そして身体がとる適応戦略のメカニズムを紐解きます。

■ 痛みや病気は「身体が間違えた結果」ではない

ポージェス博士は次のように提唱しています。

「人がトラウマ(心身への大きなストレス)を受けると、傷や死、痛みを和らげるために神経系が適応的な変化をとる。その結果、顔の表情が豊かでなくなり笑わなくなることもあるかもしれないが、それは彼らの体の奇跡的な戦略としての神経的な対応なのだ(フリーズすることで、自分を守っている)。横隔膜下の発生学的に古いタイプの迷走神経が、この防御に対応した場合、腹部臓器に生理学的な問題が生じやすい。そしてその後、交感神経亢進なども起こり、消化の問題を生じる」

ここでいうトラウマ(ストレス)とは、単なる心理的外傷だけを指すのではありません。物理的なケガ、化学的な有害物質や栄養不足など、人に心理的・物理的・化学的ストレスがかかった場合、神経系は生き延びるために何らかの適応(防衛)を行います。

その結果、のちに痛みや病気、不定愁訴が出てくることがあります。これは「身体が間違った選択をした結果」ではありません。その場を切り抜け、少しでも命を長らえるために身体が発動した「奇跡的な生存戦略」だったのです。まったくの無傷というわけにはいかず、当時の防衛システムの「残滓(遺産)」として、今の痛みや不調が残ってしまっているに過ぎません。この残ったものを適切に処理し、痛みや不定愁訴を取り除くことこそが、代替医療や実費治療の本来の役割です。

■ なぜストレスを受けると「消化力」が落ちるのか?

腰痛、寝違え、五十肩、うつ、不眠症、集中力・パフォーマンス低下などの背景には、必ず何らかのストレスが想定されます。そして、その結果として最も生じやすいのが「消化力の低下」です。その理由は身体のエネルギー配分にあります。

  • 消化・吸収には、莫大なエネルギーが必要である
  • 身体はストレスからの回復にエネルギーを最優先したい
  • そのため消化活動を後回しにし、結果として消化力低下状態になる

ここで重要なのは、血液データを見て「尿素窒素(BUN)が1桁だから消化液が出ていない。プロテインをジャンジャン摂りましょう」「ビタミンB不足だからサプリメントを摂りましょう」と、短絡的にアプローチしても上手くいかないということです。その背景にあるストレスの存在と、その人の神経系がどのように適応(ロック)しているのかに思いを巡らせなければ、根本的な解決には至りません。

■ ストレスの質を見極める3つのアプローチ

消化力低下がみられる場合、当院では第1に胃でのピロリ菌感染という「感染症」を除外します。それがクリアであれば、次にどのようなストレスが原因であるかを突き止め、その種類によってアプローチを変えます。

ストレスの分類 手技療法の位置づけ(選択基準) 当院の具体的なアプローチ
① 物理的ストレス
(外傷・構造の歪み)
【第一選択となる】
過去のケガや身体の歪みに対して、直接的なアプローチが可能です。
手技療法家としての適切な手技を用い、骨格や神経系へダイレクトに調整を行います。
② 心理的ストレス
(精神的緊張・トラウマ)
【第一選択ではない】
肉体的な介入ではなく、心理的なセラピーがより重視される。
セラピストによる適切な言葉がけや、各種セラピーによって脳の警戒モードをクリアに導きます。
③ 化学的ストレス
(栄養代謝・環境因子)
【第一選択ではない】
外側からの刺激では、体内の栄養欠乏や代謝異常を直接埋めることは不可能です。
血液データの数値化や分子栄養学的な専門知識を用いて、身体の内側(栄養や細胞レベル)からシステムを再構築します。

もし胃腸に自覚症状がまったくないのにひどい腰痛や肩こりがある場合は、過去や現在において強力な「物理的ストレス」を受け続けている可能性が非常に高いと考えられます。

■ 臨床データ(数値)と目の前のクライアントをオーバーラップさせる

これら3つのストレス(物理・心理・化学)に対応できる知識を持つことで、臨床の幅は劇的に広がります。当院では感覚だけに頼らず、消化や代謝の問題を数値化し、目の前のクライアントの状況とオーバーラップさせて治療を組み立てています。

【例】

  • 50歳前後の女性の腰痛・肩痛:たんぱく質の消化吸収状態、あるいは胃の消化力をみるために、尿素窒素やペプシノーゲンⅠ/Ⅱの数値を分析し、ホルモンバランスと消化力レベルを評価します。
  • 不登校のお子さんのケース:子供の成長に必要な血清亜鉛値などの状況を確認し、そこからの回復に必要な期間や、「〇週間後にはこの程度まで回復するだろう」という見通しを具体的に算出します。
  • 花粉症のある精神疾患系のケース:好塩基球やMCV(赤血球の大きさ)などの数値からメチレーションの状態を推測します。さらに、アレルギーや体の過緊張状態を読み解き、最適なアプローチを選択します。

骨格を整える手技(物理アプローチ)の技術はもちろん、心理的な緊張をほどく対応、そして血液データから身体の内面を読み解く知識(化学アプローチ)。これらが融合して初めて、あなたの身体が命を守るためにとってくれた「生存戦略の残滓」を、無傷で優しく解除していくことができるのです。

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